2022.07.20
スリランカは天災、人災、世界的なインフレが組み合わさり、建国以来最大の危機を迎えています。特に、この経済危機は最も苦境にいる人たちに文字通り塗炭の苦しみをもたらしています。日本からできることは少ないですが、それでも寄付金を募り、最も困難な状況にいる人たちに支援を届けたいと思います。寄付のご協力、何卒よろしくお願いいたします。
スリランカはこれまで外貨を観光、輸出(例えばアウトソーシングなど)、外国からの投融資で獲得し、それをもって原油、化学肥料、医薬品、食料などを仕入れていました。歴史的にスリランカの貿易収支は常に赤字であり、特に過去40年においてはGDPの10%ほどの貿易赤字を出し続けていました。
その状況をさらに深刻にしたのは、現政権、Covid-19、凶作、ウクライナ戦争です。現政権であるラジャパクシャ家は2005年に一家のマヒンダ・ラジャパクシャが大統領になり、国家の私物化をしてきたといわれています。この時からスリランカの対外債務はさらに増えました。債務不履行が理由で中国の手に渡ったハンバントタ港への融資が実行されたのもこの時期です。こういったプロジェクトにおいてリベートがラジャパクシャ家にわたったと言われています。閣僚の多くは家族・親族で占められていました。
それに追い打ちをかけたのがCovid-19による観光客の激減です。美しい自然と文化遺産に恵まれたスリランカにおいては、観光収入は外貨稼ぎの主な手段でしたが、それが一気にゼロになりました。外貨準備は更に厳しい状況になりました。
さらに、一度2015年の総選挙で敗北し、巻き返しを図っていたラジャパクシャ家は、2020年の総選挙の公約の一つとして、消費税(付加価値税)を半分にするという公約を掲げました。これは財政状態を完全に無視したポピュリスト政策でしたが、国民には評価され、ラジャパクシャ家らは政権に返り咲きます。そして、公約通り付加価値税を半分にしたことで、財政状態はさらに悪化しました。現在大統領になっているのゴタバヤ・ラジャパクシャはマヒンダの弟です。
世界的な凶作と物流の停滞、戦争により状況はさらに悪化しています。ブラジルや中国などで異常気象による不作が続いたのに加え、Covid-19による渡航制限で物流が停滞したことで、物価は上昇を続けていました。ウクライナでの戦争がそれを加速させ、世界的にかつてないレベルでインフレが起きました。
そこにさらに政府による人災が続きます。外貨準備が不足していたスリランカ政府がまず輸入を減らしたのが化学肥料でした。実際には外貨不足により購入できなかったのが理由なのですが、それを「国をあげて有機栽培を行う」とラベリングし、化学肥料の使用を禁止しました。それにより、農業生産品の生産高は激減し、危機に拍車がかかります。この数ヶ月で、スリランカのインフレ率は55%となりました。
6月になると、国が実質的なデフォルト状態に陥り、外貨準備もほぼ底をつくとともに、原油もほぼ国内から無くなりました。IMFは支援要件の一つとして、政府の交代をあげています。大統領の退任を訴えるデモは激化し、ついに7月10日には現大統領が辞任するにいたりました。
どこの国でも、経済危機は、弱い立場にある人々に真っ先に大きな影響を与えます。
私たちは、フィナンシャル・ダイアリーというプロジェクトを通じて、スリランカにおける低所得層の人々をランダムに選択し、その家計状況を細かく調べています。このフィナンシャル・ダイアリー参加者の77%は女性で、年齢は30代から40代が中心です。スリランカ南部から北部まで、比較的広い地域をカバーしています。
ここでは、6月18日~19日に、この2週間の消費、医療、収入レベル、副収入と家計のやりくりについて行った調査を共有します。(回答者100人)
参加者の81%が景況感について「最も厳しい」という選択肢を選んでいます。寄せられたコメントには、
「物価が高騰して何も買えない」
「買おうとしても、日々高くなっていく」
「生活のための資金がないので、買えない」
「仕事を失った」
「農業用の資材も買えない」
「日雇いの仕事がなくなり、ここのところ収入を得られていない」
「生活必需品にさえ手が届かない」
「食料価格は高騰しており、まったく十分に買うことができない」
「食料の値段は上がっているのに、収入は増えるどころか減っている」
等がならびます。
66%が食事の回数を減らし、86%が過去2週間のうちに食料調達に困難を経験し、99%が購入する食材の量を減らしました。また、約1/3が、医薬品について、物的な不足と、各家庭の金銭的な不足の両面から、その購買量を減らしたと答えています。
また、過去二週間に「安全でない(unsafe)」と感じた参加者の割合は76%にのぼっています。その理由として「収入の減少」、「生活必需品の調達の困難」、 「将来への不安」などが挙げられています。
82%が、この二週間で収入減を経験しています。日雇い労働等の仕事の減少のほか、自営業に必要な資材の不足が、その理由となっています。また予定していた収入が失われるケースも、39%の回答者が経験しました。仕事の減少だけでなく、また燃料の不足や価格の高騰によって収入を得る機会が失われるケースも少なからずありました。
回答者の25%は、金融機関等以外から借入れをしています。主な貸主は、家族や親戚、知人です。
このような現状を踏まえ、私たちは緊急支援のための資金調達をすることにしました。
形式
一般財団法人である五常財団で資金を調達し、五常・アンド・カンパニーのスリランカの現地法人であるSejaya Micro Credit社を通じて支援を実施します。Sejaya社はスリランカの25の行政区画のうち17地域に26の支店を有しています。
支援先
全ての人が困難を覚えている状況ですが、私たちが今回支援先として選ぶのは、妊娠中の女性と、スリランカの児童養護施設にいる子どもたちです。
選定基準の妥当性について
現状においては「最も困っている層」を特定するのは極めて困難です。ただでさえ低所得層の人々の所得を正確に推定するのが難しいうえに、今回のようなインフレ由来の危機においては、農業従事者は相対的に恵まれた状況にあり、従来の所得を基準とするのが難しいためです。
そこで、妊娠中の女性、児童養護施設の子どもを対象としました。妊娠中の女性は栄養失調のリスクが極めて高く、スリランカにおいては児童養護施設に十分な支援が行き届かないことが多いためです。
支援方法
Sejayaの支店があるエリアに存在する厚生省(Ministry of Health)と連携をとり、そこに登録されている妊娠中の女性に支援を届けます。また、支店の周辺にある児童養護施設にも支援を届けます。形式としては現金または食糧と交換できるバウチャーでの支援を実施します。支援金額は一人あたり5,000スリランカルピー(約14ドル)としています。
支援対象者数の概算
スリランカでは約33万人の子どもが毎年生まれます。このことから単純計算をすると、出産後期にある妊婦の数は8万人ほどと推定されます。そのうちの5%に支援を届けるとしても対象は4,000人となります。
また、スリランカの児童養護施設にいる子どもは1.4万人とされています。その1割に届けるとしても、対象は1,400人となります。
あわせると、支援対象人数は少なくとも5,000人となります。この人々に例えば15ドルを届けようとすると、7.5万ドル、約1000万円となります。支援が集まれば集まるほど、より多くの人々に当面の資金を届けることができます。
IMFが支援するから大丈夫では
IMFが支援をする可能性が報道されていますが、少なくともIMFとの協議が完了するのは8月末といわれています。実際に期間がずれ込むとすれば、3ヶ月は厳しい状況が続くでしょう。人は3ヶ月も飲まず食わずで生きていくことができるわけではありません。
国際機関に任せたらよいのでは
国連世界食糧計画などがすでにこの問題に取り組んでいます。しかし、現地ではガソリンが枯渇しているために移動が困難であり、十分な支援が届けられていないようです。また、こういった国際機関系は動くのに時間がかかりがちです。金銭的な支援であれば、私たちは国際機関や一般のNGOよりも早く支援を届けることができます。
本プロジェクトの寄付の受付を終了いたしました。ご協力いただきありがとうございました。
趣旨に賛同くださる方は、ご寄付受付フォームへの記入をお願いいたします。寄付金使途として「緊急人道支援事業費」を選択してください。
なお、当財団は一般財団法人ですので、個人からのご寄付の場合、所得税の申告時に寄付金控除は生じないことをご容赦ください。法人からのご寄付の場合は一定額まで損金算入することが認められています。
皆様に現地の状況を直接お伝えしたく、Sejaya社のCEO Nirmalan Nayagamを招いてウェビナーを開催しました。
日時:2022年7月24日(日曜日)12時~13時
登壇者:
慎泰俊(五常・アンド・カンパニー株式会社代表執行役 兼 一般財団法人五常 代表理事)
Nirmalan Nagayam(Sejaya Micro Credit Ltd., CEO)
高橋孝郎(五常・アンド・カンパニー株式会社経営企画・人事部長 兼 Sejaya Micro Credit Ltd. 取締役議長)
言語:日本語
参加費:無料
こちらのリンクよりご覧ください。
何卒宜しくお願いします。
慎泰俊